入居者インタビュー|仙台協立第1ビル 5階「Sendai Development Commission inc.」代表取締役 本郷 紘一さん
仙台協立ビルのインフォメーションや、シェアオフィス「COMPASS」として機能する仙台協立第一ビル。5階で「まちづくり」に関する事業を営む「Sendai Development Commission(センダイ ディベロップメント コミッション)inc.(以下:SDC)」は、まちづくり事例として全国的に注目される「SENDAI COFFEE FES(センダイコーヒーフェス)」を企画・運営しています。火つけ人となり、仙台にマルシェ文化を根付かせたのが代表取締役 本郷 紘一さんです。
美容師を本業とし、仙台で10店舗を展開する中で「まちづくり」に関わり始めたきっかけや、豊かな街の景色について伺いました。
街を豊かに。日常に彩りを。
本郷社長は25歳で起業をし、現在は美容の事業で10店舗を展開されています。2015年には、自転車での移動販売が目を惹く「SENDAI COFFEE STAND(センダイコーヒースタンド)」を機にカフェの経営プロデュースを担い、その後「SENDAI COFFEE FES」などの大きなイベントへも活躍の場を広げてきました。
ー 改めて、事業内容を教えてください。
美容事業を手掛ける「 GUILD(ギルド) inc.」は、美容室、ネイル、アイサロンなどから始まり、フィットネスなどのボディメイクや、ウェディング、ヘアメイクなどの事業を展開しています。「一人の女性を可愛くしたい」という想いからトータルビューティーをサポートする会社です。20歳で美容師となり、修行を経て25歳で起業をしました。
SDCは定禅寺通りで開催する「SENDAI COFFEE FES」の企画・運営や、まちづくりフォーラムの運営など、まちづくりに関わる事業を展開しています。
ー 仙台協立は、不動産会社として地域の価値を高めていくことを使命とし、「まちづくり」も事業の一環としています。氏家社長から見て、本郷社長の印象はいかがでしたか。
本郷社長に初めてお会いしたのは、とある講座の最終発表でした。きちっとした計画と、マーケティング、そこに算出されている数字がバシッと合っていて印象に残りました。当時は美容室を3店舗経営されていた頃で、しっかりと現場を見ている方の、理にかなった狙い所が論理的に整理されているなあと。
2016年に実店舗を構えたSENDAI COFFEE STANDは、仙台協立第1ビルからほど近いこともあり活動はよく拝見していました。ビジネスとしての一面はもちろんですが、コーヒーフェスのように行ってみたい! と思わせるビジュアル力があります。「ビジネス」と「アート」のバランスが素晴らしいですね。
ポートランドで見た「大きな木の下」へのこだわり

SDCより提供
ー氏家社長のお話にも合ったように、SENDAI COFFEE FES(以下:コーヒーフェス)は、定禅寺通りのけやき並木の下で行われる風景が印象的です。実際に、全国的にも注目度が高いイベントだと思っています。仙台市内には大きなイベントに適した会場がいくつかあったかと思いますが、定禅寺通りにこだわった理由を教えてください。
SDCが定禅寺通りで開催しているイベントは、ポートランドのマルシェの理念「大きな木の下で開催すること」に則っています。
ポートランドは、全米一住みやすい街と言われ、コーヒーが美味しく、ウォーカブルな街です。
僕がポートランドで実際に見て、体験した「豊かな街」のビジョンは明確に映像化されていたので、大きな木の下である定禅寺通りでの開催にこだわりました。コーヒーフェスはそのコンテンツの一つで、実際には「GREEN LOOP SENDAI(グリーンループセンダイ)」という事業の中に属しています。コーヒーフェスや、パンフェス、ファーマーズマーケットなどを定禅寺通りで開催するというものです。
ー 本郷社長が持つイメージを、チームに伝えて実現に至ったのでしょうか?
いいえ。行政の方や、大学の先生方と共にポートランドへ視察に行きました。美容業界では「見たことがある景色しか表現できない」と定義されています。夢みたいな話を再現するためには、実際に見に行く必要があると考えました。

SDCより提供
ポートランドは、日本と同じように四季があります。そして街の規模感が仙台市と似ている都市です。僕たちが取り組もうとしているまちづくりは、単発的なものではなくて、豊かな日常を作るためのものなので、同じ景色を経験したことで、共通のビジョンが持ちやすくなったと感じています。
(氏家)共通のビジョンを持っていても、いいものを見てきても、それをうまく再現するというのは、とても技術や根気が必要なことです。
「欲望」への熱量を「豊かさ」へ変えて
ー コーヒーフェスをコンテンツとしたGREEN LOOP SENDAI以外にも様々なイベントを企画・運営していらっしゃいますが、本郷社長のイベンターとしての活動の原点はどこにあるのでしょうか?
最初は、高校生時代のバンド活動です。ライブをするには箱代(ライブ会場費)がかかるので出演者はチケットを売って会場費を捻出しています。
人気のあるバンドに対バンをオファーしたり、複数のバンドを集めることで負担額を減らしていくのが一般的です。次第に、バンドだけではなくDJやダンサー、ヒップポップなどカルチャーのミックスをしてイベント化することで利益ができる仕組みを整えました。
美容師になってからは、ファッションショーやヘアショー、クラブイベントなどに形を変えながら継続してきました。コーヒーフェスを開催する1年前は、仙台七夕の前夜祭やハロウィンに合わせて「朝までゴミ拾い」をするイベントを企画していました。この時に集まったボランティアたちが、後に初開催となったコーヒーフェスのコアキャストとして活動をサポートしてくれました。
ー 「美容」と「まちづくり」では事業内容が大きく異なるかと思いますが、まちづくり事業に参入したきっかけを教えていただけますか。
2015年に、「一杯のコーヒーが街を豊かにする」という理念を掲げてSENDAI COFFEE STANDを自転車一台で始めました。まちづくりに興味を持ち始めたのは、2016年に店舗をオープンししばらく経った頃でしょうか。
行政の方から「まちづくりに興味がないか」と声をかけられたのがきっかけです。最初は興味が湧いて参画し、公園を補助金を使わず民間の力でリノベーションをしたり、「DAY OUT(デイアウト)」というマルシェイベントを開催するようになりました。

(A cup of coffee fills our city. ー 一杯のコーヒーが街を豊かにする)
コーヒーフェスを初開催した当時は、まだSDCとして活動しておらず、あくまで個人の事業の一つとして収支を立てていました。しかし、仙台で開催するイベントをよく見てみると、東京の会社が請け負っていることが多くあります。地元・仙台の祭りやイベントを、首都圏の人たちが受注して、仙台に住んでいない人たちが潤っていることに違和感を覚えました。
今後の展開を見越した時に、会社として受け皿を構えることが、イベントの継続や街のためになると考えました。

SDCより提供
若い時に企画しているイベントは、人気者になりたい、モテたい、お金を稼ぎたいという自分主体の気持ちが、行動の原動力だったようにも思います。その熱量が、自分ではなく周囲への「豊かさ」に変わったことも、きっかけの一つではないでしょうか。
街を回遊してもらうことで、1箇所だけではなく街の広い範囲が賑わい、豊かになるイベントを手がけられるようになったと思います。
豊かなまちづくりへの課題
ー 多くの事業を展開する中では、苦労した部分も多いかと思います。差し支えのない範囲で、お伺いしてもよろしいでしょうか。
SENDAI COFFEE STANDを始めた当初は、同業の方から冷たい態度を取られることが多かったです。自転車で販売するスタイルや、キャッチーなフレーズを携えた活動はファッション的に捉えられる要素が多かったのだと思います。

SDCより提供
僕たちは、流行りの飲食店を作るのではなく「カルチャーを作る」という目的で取り組んでいたので、一緒にやりたいという気持ちが大きかったのですが……。受け入れてもらうまで時間がかかりました。
また、当時はSDCを立ち上げる前だったので、会社の中でもハレーションが起こっていました。「美容室なのに、なぜコーヒーなんだ」という人もいましたし、スタッフから「美容事業にお金を使ってほしい」という声もありました。敵は多かったのではないでしょうか。(笑)

SDCより提供
ー そのような状況を乗り越えたきっかけはあるのでしょうか。
「喧嘩をしながらでも、強力な味方を得て乗り越えてきた」という感じでしょうか。身内だけではなく、氏家社長のように、僕らしさを潰さないように外の圧力から守ってくれる先輩方がいたことも大きいです。
(氏家)新しいことをしてくれる若手を潰さないように、外でサポートをしていくことも重要です。本郷社長は、ビジネスとアートのバランスが取れているからこそ、調和性まで備わってしまうと普通の人になってしまうような気がしたんです。
当時は、今よりもずっとギラギラしていて、対立意見や否定的な声をもろともせず突き進む姿勢から、本郷社長ならやってのけるだろう! という気迫がありました。私にはできないことなので、そろそろそ第二、第三の本郷社長(のような若手)が出てきて欲しいという気持ちもありますね。新しいことをどんどん考えて、アクションを起こす人が少ないというのは、寂しいものです。
ー 「若手が出てきて欲しい」というお声がありましたが、お二人から見る、今後の仙台でのまちづくりに必要になってくるであろう課題はありますか?
(本郷)まちづくりで考えると、どれだけ積み上げてきても、担当者が変わると風向きが変わってしまうことがあります。何年間もかけて作り上げたものが、一瞬で更地に戻ってしまうのは、さすがに肩を落としてしまいます。このような状況が少しずつでも改善されたり、継続しやすい環境になればと思います。
(氏家)新しい挑戦は難しいかもしれませんが、事前に他の地域で成功事例があったり、実現しやすい事例というものは軋轢が少ないので、どんどん事は進んでいきます。しかし、良い方向に進んでいるかはわかりません。
突飛なことがない、均一化された街になってはローカルがなくなってしまうのではという懸念もあります。周囲を見渡せば、小さなお店や飲食店が次々とできているので、繋がっていくだけでも、まちづくりになっていくと思います。
(本郷)そうですね。お店を経営する側からすると、人件費が上がっているだけではなく、物件の管理費が上がることで家賃や共益費に影響があったり、物価高騰で新築が建てられなかったりと、小商を生み出せる環境として、ずいぶん苦しくなったように思います。
(氏家)保守点検や清掃も、結局は人がやっているので人件費として全ての価格が上がっています。以前に比べ、物件に投資をする大家さんも少なくなったように感じます。”豊かだから”未来に危機感がないわけではなく、”今のままでいい”という考えから、未来を考えない人が増えているのではないかと思うんです。それは、将来への責任を街に対して残していくことなのかもしれません。
私は、街は集合体と考えているので、一つひとつの物件が持つ”らしさ”を生かすアプローチをしていきたいですね。
ー 課題に対して取り組めそうなことや、仙台協立がサポートできそうなことはありますか。
(本郷)近頃、若手起業家と仕事をしていて「大人の経営者とのつながりがない」「交流の場がない」ということがわかりました。僕自身が、そのような場に所属して成長してきたので、経営者や経営者を志している人が集まる場所があればいいなと考えています。経験を積んできた経営者たちが後輩に苦悩を話す、新人経営者たちの苦労や取り組みを話す場を復活させたいです。
(氏家)ビジネス交流会ではなく、勉強会や刺激をしあう場は必要ですね。COMPASSやその他の会議室等も会場として活用いただけるかと思います。ビジネスをする人たちが成長できないと、人口流出に繋がってしまいます。
私も、自分の子供たちが仙台に戻ってくる日のことを考えて、おもしろい街、風土を作っていく必要があると考えていますので地域を盛り上げていきましょう!